2010-09-18

ついに姿を現したバンクシー


ストリートアートのカリスマ、バンクシーが作った映画とは?



世間の目から逃げ続けるろくでなし男、バンクシーの話題は久しぶりだ。最後にニュースになったのは、2009年にホームタウンのブリストルの美術館で個展をやるという、突拍子もないものだった。最初にその話を聞いたとき、ついにストリート出身のアーティストは違法な器物破損行為から卒業し、美術機関とオークションハウスのお世話になるべくギャラリー・アーティストに変貌を遂げたのかもしれない、と思った。だがその予測は外れた。その後、常にスリルを追い求める変幻自在なこの男は、ゲリラ的映画監督として“ドキュメンタリー風”映画、『Exit Through the Gift Shop』を作り始めたのだ。
作品に登場するのは、実在する熱狂的グラフィティファンのフランス人、ティエリー・グエッタ。ストリートアートたちのコミュニティ内部へのアクセスを得た彼は、カメラを片手に真夜中のグラフィティ行動に同伴する。もちろん登場するグラフィティライターたちの顔はマスクやモザイクで隠されている。パリとロサンゼルスでのあり得ないいたずら行為の撮影後、バンクシーはこの熱狂的ファンにカメラを向ける。グエッタに、撮影することや映画作りを諦めてお前がスプレー缶を持ってみろと言わんばかりに。大胆にもこのフランス人は素直に言うことを聞いて『Mr Brainwash』という名のアーティストになり、一夜にしてアーバン・アートの仲間入りを果たすことになる。使い古されたウォーホル・スタイルで、味気無くも見える肖像画作品は、マドンナのベストアルバム『セレブレーション』のジャケットに起用され、彼はロサンゼルスのギャラリーで個展を開催するまでになった。バンクシーをしのぐ成功だ。こうしてシンデレラストーリー的映画が完成した。
『Exit Through the Gift Shop』で取り上げられているのは、ストリートアートの異常性だ。バンクシーも無意識であれ、この異常な現象を盛り上げた一人の人物であることは間違いない。映画にはバンクシーに影響されたアーティストたちと、彼らをスターダムにのし上げる、想像力のないコレクターたちが登場する。コレクターたちは資産価値のある限定作品を買い漁ることだけが目的だ。バンクシーの映画は、ストリートアートを単純に楽しむだけの作品ともとれるし、現在のアートマーケットに警鐘を鳴らす作品だともとれる。もし後者だった場合、忠実なフォロワーだったグエッタは、もしかしたらバンクシーの創作ではないのだろうか?グエッタは、わけも分からずに人真似をはじめ、最終的にマスターのゼペット爺さんを悲しめることになった心優しいピノキオをわざと演じていたのではないか?あり得ない話ではないだろう。バンクシーがこのシナリオを入念に計画し、長い時間をかけて成功させたのだとしたら、本当に信じがたいことだ。実際にこの忠実な模倣者の作品は今では売り切れ状態で、雑誌からもひっぱりだこのアーティストになっている。
自らが生みだした天才児が映画でスポットライトを集める一方、バンクシーが世間の目を逃れることは困難になるばかりだ。メディアには彼の正体は教養のある30代のロビン・カニングハムという人物だとすっぱ抜かれた。あげくにロンドンで起こったグラフィティ戦争にも巻き込まれた。オールドスクールのグラフィティライターたちの中には、彼の作品はステンシルでトレースしただけで、成功したのは単に運がよかっただけだ、と批判的な感情を持つものも少なくない。紛争の発端は、ロンドン北部に拠点を置いて活動するベテランライターであるロボの描いた作品の一部にバンクシーが上描きしたことで、これに激昂した彼のチームによって、北ロンドンエリアのバンクシーの作品は全て棄損されてしまった(皮肉にも現在は地元議会によって価値が認められている)。
自分こそは本物のバンクシーに会ったと吹聴する人も多くいるが、私は本当に本物のバンクシーに出会った。しかも数年前、イーストエンドであったグラフィティのイベントで、偶然に、だ。眼鏡をかけた、中肉中背の平凡な外見の男だった。直接コンタクトをとることは極めて難しい人物となったが、バンクシーは今回、タイムアウトロンドンのインタビューに応え、事実を語ってくれた。さらに特別にタイムアウトロンドンのマガジンカバー用に新作を作ってくれた。英国の近衛兵たちが壁に向かって立ち小便をしたり、グラフィティをしたりしている昔のあの作品がベースになっている。このインタビューにこぎつけるには長い時間がかかった。内密のやり取りや、ひたすら返事を待つ間に、彼への細いコンタクトの経路は幾度となく閉ざされた。ようやく、防弾効果が完備されている彼の基地にてインタビューにこぎつけた。だが、カーク・ダグラスがスパルタカスを大作だと信じて出演を決めたときのように、私自身もこの人物が大物であるかを最初に確認しなければならなかった……。

バンクシーのインタビュー

世間の目を嫌うストリート・アーティストのバンクシーが、タイムアウトの前に姿を現した。その知名度の高さや、グラフィティ戦争が起きている今、ロンドンの高騰する不動産について語る。自身の新作映画については最後まで語らなかったが……。


あなたは本物ですか?ザ・ガーディアン・ガイドのような大手新聞社も、偽物のインタビューでだまされていますからね。


バンクシー: いや、自分が偽物だったらどんなによかったかと思うよ。あまり目立つような性格じゃないから、キャラクターを作り上げるのが大変なんだ。例の映画について宣伝したいけど、ラストを台無しにしたくないから映画自体については話したくない。このページ、白紙にして読者が好きな絵でも描けるようにしたらだめかな。


では、少なくともなぜあなたが自身の作品を史上初のストリートアートの“失敗作”と呼ぶのかを教えてもらえませんか?あなたの最後の映画作品ということですか?


バンクシー:これに関わる全ての経験が、あらゆるレベルで失敗だったと思う。これは僕の映画界初進出の作品で、大コケして、次に続かなかった作品として世に広まるだろう。


始まりはアートでしたね。次にアニメ。そして映画……。未来のウォルト・ディズニーになれると思いますか?


バンクシー:そんな風に考えたことは一度もない。グラフィティをしたりして器物破損をする人たちのための巨大テーマパークを作るのはいいかもしれない。ビースティ・ボーイズの『ライセンスト・トゥ・イル』が発売されたとき、ちょうど夏休みのキャンプ合宿にでかけていた。瞬く間に、子供たちは首からVW(フォルクスワーゲン)のバッジをぶら下げるようになったんだよ。街中の車から盗んできたやつだ。ついに警察がキャンプ場になだれ込んできて、町長には子供用プールの脇でかなり説教されたよ。


ついにある新聞に顔写真が掲載されてしまいましたが、街中で気づかれるようになりましたか?


バンクシー:何年か前に、俺こそがバンクシーだと名乗りでたやつがいただろう。ショアディッチのナイトクラブに無料で入るために。噂が広がって、他のグラフィティライターが彼を止めさせたみたいだけど。世の中に出回っている写真についてコメントするつもりはないよ。


では、グラフィティ界のベテランライターであるロボとドラックスとの抗争を説明してもらえますか。


バンクシー:ロボとはバトルしたかったわけじゃない。あんな大男、敵にまわしたくないだろう?90年代後半、彼とドラックスの悪評はすでにブリストルまで届いていたくらいだ。『Robbo』という文字が描かれた作品に、僕が上から描いたというのはでたらめだ。『nrkjfgrekuh』と描かれていた作品の上に描いたんだ。なんにせよ、壁は誰か個人の、特有のライターの“所有物”だという考え方は好きじゃない。
昔からやっているグラフィティライターたちは自分たちのルールを決めてやっている。それについてどうこう言うつもりはないけど、僕は誰かの指図をうけるためにグラフィティアーティストになったんじゃない。もし自分の作品を塗りつぶされて嘆き悲しむようなら、グラフィティは趣味として向いてないと思うね。


あなたはグラフィティコミュニティからグラフィティを商品化した裏切り者だと言われていますよね。それに関してどう弁解しますか?
バンクシー:“商品化”を定義付けるのは難しいよ。マクドナルドのポスターデザインを受注してデザインするより、マクドナルドを批判したポスターを勝手に作る方が、金になるんだから。
自分にはこう言い聞かせている。自分は、反対意見を唱えるためにアートを利用しているんだと。でももしかしたら自分のアートを宣伝するために反対意見を使っているのかもしれない。その裏切り行為のレッテルには、無罪を主張したい。でもどう弁解するにせよ、僕の家は昔よりずっと大きくなっていることは事実だけど。


ギャラリーなどでストリートアートが展示される日は来ると思いますか?


バンクシー:ストリートアートが室内の展示向けだとは思わない。飼いならされた動物は、野生と自由を失って、太っていつも眠たそうにしているだろう?アートは常に屋外にあった方がいいのかもしれないね。だけど、確かに動物が側にいると老人は落ち着くのだろうね。
路上で壁に落書きをしているときのアドレナリンは、お茶を入れながら静かな光のともるスタジオにいたら得ることはできないよ。壁からグラフィティをはがして盗む人々にも考えがあるのかもしれない。少なくとも緊張感はあるから。でも、おかしいことに彼らは僕に、僕の作品である証明書を作成してくれと頼んでくる。それは犯罪供述書にサインするようなものだろう?


国のためにあなたの作品は保存された方がよいと?


バンクシー:どの作品が残って、どの作品が消されてしまうかは予測不可能だ。ニューオリンズで、廃墟化した店舗に作品を描いたことがあった。捨てられた車だとか腐ったマットレスがそこら中に置かれていたような地域だ。たった2時間後、その作品は何者かによって撤去された。後で知ったことだけど、そこは麻薬の密売所で、経営者は注目が集まるのを嫌っていたんだ。
確かなことは、たとえ自分が途中で放り投げたくだらない作品でも、数ヶ月後には白い手袋をはめた誰かがそれをサザビーのオークションでうやうやしく見せているかもしれないってことだ。


あなたの作品の資産価値はどれほどだと思いますか?人々がそれを資産や高級品として取り扱ったりすることについてどう思いますか?


バンクシー:僕の弁護士に言わせると、警察は僕を器物破損の罪で逮捕できなくなるかもしれないってことだ。論理的には、 僕 のグラフィティが描かれていることで、その不動産の価値は下がるどころか上がることになっているからね。これは彼の意見だけど、彼は風変わりなアニメキャラのネクタイをつけることが格好良いと思っているような弁護士だからどうだろうね。


最後に、タイムアウトロンドンのカヴァー(表紙)用の作品の作成はいかがでしたか?


バンクシー:カヴァーの意味がよくわからない。カヴァーって大抵、見かけ倒しな方が多いだろう……。

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